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カトリック教会会憲(ARCC試案)
カトリック信者の諸権利協会
本稿は、米国のカトリック信者からなる一組織ARCC(「カトリック信者の諸権利協会」)が発起人となり、インターネットなどを利用した世界的なネットワークから助言や批判を得て起草した教会会憲の試案である。同協会によれば、この試案はカトリック教会の民主的な運営を目指すもので、福音的価値と教会の歴史と神学、教会法、第二バチカン公会議公文書、(一九六五年にパウロ六世の命令によって起草されたが発効せずに終わった)教会基本法(Lex Ecclesiae Fundamentalis)、そして過去二百年間の市民法に基づいて作成された。この試案が提示する教会運営のモデルは、教皇と教皇庁を頂点とする従来のピラミッド型の教会統治とは全く異なる。キリスト者の生活は第一に、共同体または教区レベルで営まれるものであり、それゆえ補完性の原理からしても、教会の意思決定の大半はそのレベルで行われるべきであるという認識(司牧的観点)――これが、この試案の大前提である。
この試案が着手されたのは一九九五年。その後改訂を重ねる間に、米国では聖職者による性的虐待の問題が明るみに出るなど、カトリック教会への信頼は甚だしく低下した。このことは、現代世界また日本社会におけるカトリック教会にとってもよそ事ではない。「神の民」の「母なる教会」の運営を、このような形で「民主的」に規定することに大きな違和感を覚える信者も少なくないと思われるが、「刷新」を謳った第二バチカン公会議から四十年を経てこのような提案がなされていることを、まずは受け止めてみてはどうだろうか。Association For the Rights of Catholics in the Church, A Proposed Constitution of the Catholic Church. 原文はインターネット (http://arcc-catholic-rights.org) で参照できる。
この会憲は、カトリック教会の運営の枠組みを提供するものである。この会憲は、カトリック教会の成員の基本的権利とそれに応じた責任、およびカトリック教会内の意思決定と行動のための基本的構造を示すものである。カトリック教会のすべての法規・規則・慣例は、この会憲の枠組みと精神のうちに実行されるものとする。
Ⅰ.前文
1.カトリック教会に属する私たちカトリック信者は、次のように考える。すなわち、すべての男女は神の似姿として創造され、いかに生きるべきかについての神の教えがすべての人間の心に刻まれているのであるから、人は皆、尊厳ある者として平等に遇されるべきであり、一人一人が同じ基本的権利と責任を持っている 。
2.私たちは、キリストによる、水と聖霊による洗礼を通しての神への信仰によって、次のように信じる。すなわち、すべてのキリスト者は、「キリストの体の一部」すなわち、普遍教会の成員となる。キリスト者の生は、イエスが宣言し、かつ生きた福音を生き抜くことに、堅く結ばれている。また、ローマの司教によって歴史的に行使されてきた一致の奉仕職を認めるすべてのキリスト者は、カトリック教会(以後「教会」と称す)の成員である。
3.私たちは次のように考える。すなわち、福音に基づく教会の使命とは、神の似姿として十分に人間らしい生をいかに生きるかというイエスの福音(よき知らせ)を、個人と共同体の愛と正義において宣言し、示すことである。そして教会は、福音の精神を保ち育てるために、また神と隣人への愛のうちに生きようと努める信者を助けるために行使される法律のうちに、この使命を実現する。そのような教会の使命にとって土台となるのは、全信者が有する権利と責任である。
Ⅱ.権利と責任
各人の基本的人権と、洗礼から来る根本的権利により、すべてのカトリック信者は、次のような基本的権利を有する。各権利には、権利の保持者が担うべき、権利に応じた責任が必然的に伴うが、それらのあるものはあまりに明白であるから、特に明記する必要がない。これらの責任と権利は、あらゆる場合に、人種・年齢・国籍・性別・性的志向・身分・社会的経済的立場に関係なく、全カトリック信者に適用される。
A.基本的人権と責任
1.すべてのカトリック信者は基本的人権を有する。例えば、(a)行動の自由、(b)良心の自由、(c)主張と表現の自由、(d)情報を受ける権利と知らせる権利、(e)結社の自由、(f)正当な法手続きの権利、(g)自治に参加する権利、(h)選出された指導者に説明責任を求める権利、(i)個人の評判とプライバシーを守る権利、(j)結婚する権利、(k)教育を受ける権利と、責任を持ってその権利を行使するための義務、である。
2.行動の自由という基本的権利により、すべてのカトリック信者は、他者の権利を侵害しない、また他者に不都合をもたらさない活動に参加する権利を持つ。
3.良心の自由という基本的人権により、すべてのカトリック信者は、あらゆる事柄において、正しい情報のもとにある自分の良心に従う権利と責任を持つ。
4.情報を受け、知らせる基本的権利により、すべてのカトリック信者は、教会権威者が持つ、権威者自身の霊的かつ現世的福利に関するあらゆる情報を入手する権利を持つ。ただし、それによって他者の権利が侵害されてはならない。
5.主張と表現の自由という基本的人権により、すべてのカトリック信者は、教会権威者の下した決定に関して、責任ある方法で賛否を公に表現する権利を持つ。
a 信徒は、責任ある方法で自分の意見を明らかにする権利と責任を持つ。特に、扱われている問題に関して直接の経験がある場合。
bカトリックの教師と神学者は、学問的自由に対する権利と責任を持つ。彼らの教えの妥当性は、同僚や、そして必要ならば、教会の権威者との対話の中で判断されるべきである。これらの学者や教師は、次のことに留意する。すなわち、真理の探究とその表現は、何であろうと事実が指し示すところに従うことを意味する。それゆえ、責任ある不同意、そして思想とその表現の多様性には正当性がある。
6.結社の自由という基本的人権により、すべてのカトリック信者は、カトリックの目的を追求するために、自発的な組織を結成する権利を持つ。また、このような組織は、組織運営のルールを自ら決定する権利を持つ。
7.法の正当な手続きに関する基本的人権により、すべてのカトリック信者は、公正な行政手続きと法的手続き上、通常受け入れられている規範に従った対応を、不当に遅らされることなく受ける権利を持つ。また通常の法的手続きを通して、自らに対する不当な扱いを正す権利を持つ。
8.自治への参加という基本的人権により、すべてのカトリック信者は、指導者の選出を含め、自らに影響を及ぼす決定について発言する権利と、責任をもってこれらの権利を行使する義務を持つ。
9.選出された指導者の説明責任に対する基本的人権により、すべてのカトリック信者は、指導者から説明を受ける権利を持つ。
10.自らの評判やプライバシーを守るという基本的人権により、すべてのカトリック信者は、自分の良い評判が攻撃されない権利、プライバシーを侵害されない権利を持つ。
11.結婚についての基本的人権により、すべてのカトリック信者は、自分の生き方を選ぶ権利を持つ。これは信徒と聖職者の双方が持つ権利であり、結婚・独身・奉献的独身を選ぶことができる。
12.結婚についての基本的人権により、それぞれの配偶者は結婚期間中、平等かつ十全な権利を有しているが、すべてのカトリック信者は、回復不可能なまでに壊れた結婚を取り下げる権利を持つ。
aこのようなカトリック信者はすべて、再婚する本来的な権利を持つ。
b離婚して再婚したすべてのカトリック信者は、良心に省みて教会に対して和解している場合、他のカトリック信者同様、すべての秘跡を受ける権利を含め、同じ司牧に与る権利を保持する。
13.結婚と教育に関する基本的人権によって、カトリック信者であるすべての親は、次の権利と責任を持つ。
a家族の規模を良心に従い決定すること。
b家族計画の適切な方法を選ぶこと。
c子供の教育に配慮すること。
B. 洗礼による基本的な権利と責任
1.受洗の結果として、すべてのカトリック信者は、キリスト者として十全な生活を送るに必要な次のような司牧を教会において受ける権利を持つ。
a集まった共同体の喜びと関心を反映し、共同体を教え導き、共同体に息吹を与える礼拝に与ること。
bキリスト教伝統についての教えを受けること。また、キリスト教的価値が現代生活に対して有する有用性と今日性とが高まるように、霊性と道徳的教えとが示されること。
c特殊な状況に置かれた人々に関しては、キリスト教の遺産が、配慮をもって効果的に適用されるような司牧的ケアを受けること。
2.受洗の結果として、すべてのカトリック信者は、以下の権利を持つ。
aふさわしい準備を経て、すべての秘跡を受けること。
b共同体の必要性と承認または委託に基づき、しかるべき訓練を受けたうえで、教会においてあらゆる奉仕職を果たすこと。
3.受洗の結果として、すべてのカトリック信者は、教会内で使われる教会財源が、彼らのために公平に配分されることを期待する権利を持つ。ここで特に留意すべきは、以下の点である。
aすべての女性信者は、教会財源とすべての権能の行使について、男性と同等の権利を持つ。
bカトリック信者であるすべての親は、子供の信仰教育について、公平な物質的支援やそれ以外の支援を教会指導者に期待する権利を持つ。
cすべての独身のカトリック信者は、教会財源が彼らのために公平に使われることを期待する権利を持つ。
4.受洗の結果として、また人間が本来備えているべき社会性からしても、すべてのカトリック信者は、自らの時間と能力と財源によって教会を支援するという相応の責任を持つ。
Ⅲ.運営の構造
A.基本的な洞察
1.教会は何世紀にもわたり、権力と法の行使に関する具体的な問題に取り組んできた。権力と法の行使なくしては、いかなる社会も存続不可能であり、まして人間的な発展は望めない。この長い時間の中で、きわめて多彩な文化における権力と法をめぐる数多くの試みのおかげで、教会には、得たものもあれば、苦しみもあった。それらの試みの中で教会は、良き方法と良からぬ方法の両方について、つまり、うまく機能するものとしないものとについての知恵を得た。
2.これらのすべての経験から得た、鍵となる二つの洞察は、第三千年期における教会の運営にとって根本的である。一つは、分担された「責任」とそれに応じた「自由」は、個人としても共同体としても人間らしくあることの核心にある、という洞察である。もう一つは、現実理解を深める最も効果的な方法とは、教会内と教会外の両方で行われる「対話」である、という洞察である。本会憲は、教会の長い経験と知恵、特にこの二つの重要な洞察に基づいて、教会運営の構造を描き、作り上げるものとする。
B.原則
1.共同体であることは、教会の本質である。その教会共同体の最も基本的な単位は、家庭やその他、親しい者の集まりをはじめとする、信者が日常生活を営む場所である。教会の、これを越えた基本的な単位は、地域共同体である。これは、それに限定されるわけではないが、たいていは地理的な小教区である。
2.しかしながら、教会が諸共同体の交わりであるということもまた、教会の本質である。したがって地域共同体は、中間レベルの共同体においてもひとつに結ばれる。これも、それに限定されるわけではないが、たいていは地理的な司教区である。それらが国としての共同体においてひとつになり、それら国ごとの共同体が最終的には、普遍的なカトリック教会という地球的な共同体においてひとつになるのである。加えて、地域的交わりや多国間の交わりといった、それ以外の教会共同体の交わりも、地理や言語といった要因に基づいて正当なものとして発展することができる。
3.福音の精神と、進展する人間の経験、そしてダイナミックなキリスト教伝統、特に自由を伴う責任分担および対話という二つの重要な洞察に鑑みて、次のような基本原則が、教会運営の構造と規則を形作るものとする。
a補完性の原則が教会全体を貫かなければならない。すなわち、すべての決定権と責任は、広域共同体が特にそれらの権利と責任を果たす方が望ましいのでなければ、小域共同体に留保される。
b教会全体を通して、伝統の定式化と適用は、寛大さと尊敬をもった対話を通して実現されなければならない。
c教会全体を通して、各共同体の一連の運営規則は、各共同体において作成されなければならない。
d教会全体を通して、公職に就く指導者は、各構成員が発言権を持つ適正な組織を通して選出されなければならない。
e指導者の任期は限定され、規定に明記されなければならない。
f立法権・行政権・司法権の分離は、チェック・アンド・バランスの仕組みをもって保たれなければならない。このためには、あらゆるレベルでの整備された法制度と同様に、代表として選ばれた協議会や指導者が必要である。すべての部署は、福音の精神とこの会憲にふさわしい方法で責任を分担する。
gすべての指導者や協議会は、その構成員に対して、財務会計を含めた自らの業務を定期的に説明し、適当な時期に外部の監査を受けるものとする。
h女性と少数派を含む、信者からなるすべての集団は、指導と意思決定のあらゆる場において、公平に代表されなければならない。
C.協議会
1.あらゆるレベルにおける教会の交わり――地域・教区・全国・全世界・その他、代表として認可された交わり――は、意思決定の主体としての役割を果たす協議会を設置しなければならない。各協議会は次の点を遵守するものとする。
a各協議会の審議と決定は、補完性と対話の原則を特徴とする。
b協議会のメンバーは、できる限り代表者選出の形式によって選ばれなければならない。適当ならば、その教会内の様々な組織の代表を含むものとする。
c協議会のメンバーの任期は、あらかじめ明記された期間とする。
dどのレベルの協議会も、運営規則はその協議会において作成しなければならない。その際、広域共同体の適切な規則に留意する。
e各協議会の運営規則は、本会憲に明記されている運営上の基本原則を遵守して、以下のことを規定しなければならない。すなわち、メンバーの人数、選出方法、任期、議長の選出方法、意思決定責任の割り当て方法、およびその他の運営手続きを、基本原則に即して規定するものとする。
f一人一票の規則は、すべての協議会に適用されなけれ
ばならない。
g全国、多国間、世界レベルにおける協議会は、そのメンバーの少なくとも30%を役職にある聖職者とし、30%を信徒としなければならない。
h何人たりとも拒否権を持ってはならない。
(a)地方レベル
1.各小教区(またはそれに相当するもの)の信者は、その小
教区の主たる意思決定機関である協議会を選出しなければならない。主任司祭は職権上、協議会のメンバーを兼務しなければならない。
2.小教区の運営規則がいまだない場合、小教区協議会は、地域的共同体や、広域共同体の適切な規則に留意しつつ、それを策定し、小教区の承認を受けなければならない。
3.小教区協議会は、礼拝・教育・社会活動・管理・財政・その他、小教区の名において行われる活動についての小教区の方針に対して、直接に、あるいは諸委員会を通じて、最終的な責任を負わなければならない。
(b)司教区レベル
1.各司教区は、その司教区の主たる意思決定機関である司教区協議会を選出しなければならない。教区長である司教は、職務上この協議会のメンバーである。この協議会は、役職にある聖職者と、信徒とによって構成されなければならない。
2.司教区会憲および(もしくは)運営規則がいまだない場合、司教区協議会は、全国的・国際的共同体の適切な規則に留意しつつ、そのいずれか、もしくは両方を策定し、司教区内の三分の二にあたる小教区協議会の承認を受けなければならない。
3.司教区協議会は、礼拝・教育・社会活動・管理・財政、その他、司教区の名において行われる活動についての司教区の方針と諸規則に対して、直接に、あるいは諸委員会を通じて、最終的な責任を負わなければならない。
(c)全国レベル
1.国ごとの諸司教区協議会は、通常、全国協議会を設立する。ある国の諸司教区協議会が、規模やその他の制約のために全国協議会の設立が適当でないと判断した場合、それらの司教区協議会は、全国協議会に代わる適当な上部協議会に加わる、あるいはそれを設立する許可を総協議会に求めなければならない。全国協議会もしくはそれに代わる上部協議会は、全国レベルでの主たる意思決定機関となるものとする。全国協議会の選出する司教と信徒、各一名が、全国協議会の共同議長を務めるものとする。
2.全国レベルの会憲および(もしくは)運営規則がいまだない場合、全国協議会は普遍教会の適切な規則に留意しつつ、そのいずれか、もしくは両方を策定し、総数の三分の二にあたる司教区協議会の承認を受けなければならない。
3.全国協議会は、礼拝・教育・社会活動・管理・財政・その他、全国協議会の名において行われる活動についての全国的方針と諸規則に対して、直接に、あるいは諸委員会・諸機関を通じて、最終的な責任を負わなければならない。
(d)多国間レベル
1.複数の全国協議会(例えば、一つの大陸や、地理的に独立した一つの地域における)が、形式上、合同すると有益であると判断した場合には、本会憲に明記されている基本原則を遵守して、多国間レベルの運営のための一連の規則を策定し、関係する全国協議会の承認を受けるものとする。
(e)普遍教会
1.全国協議会は、十年毎に総協議会を選出しなければならない。これが普遍教会の主たる意思決定機関として機能するものとする。総協議会は、補完性の原則に特に留意しつつ、教義・倫理・礼拝・教育・社会活動・管理・財政・その他、普遍教会の名において行われる活動に関する方針と規則を制定することだけでなく、普遍教会を運営する法と規則を策定することに対する最終的な責任を負わなければならない。教皇と総協議会によって選出された信徒一名が、総協議会の共同議長を務めるものとする。
2.総協議会のメンバーは総数五百名とし、十年を任期として選出される。改選は一斉とせず、ずらして行う。総協議会は少なくとも年に一回は会合を持つ。
3.総協議会は、各全国協議会によって選ばれた総数五百名の代表により構成される。各国の代表者数は、その国で登録されているカトリック信者数に比例する。代表一名に必要な信者数を満たさない国々は、合同して、より大きな一単位を成すものとする。
4.総協議会の会憲および(もしくは)運営規則がいまだない場合、第一回総協議会は、本会憲に明記されている基本原則を遵守して、そのいずれか、もしくは両方を策定し、総数の三分の二にあたる全国協議会の承認を受けなければならない。
5.総協議会の会憲とその運営規則は、総協議会が設けた全職務に関する運営規則とともに、すべて本会憲と同じ法的地位を有するものとする。上記のものに対するいかなる修正も、本会憲第五部「修正」の手続きに従わなければならない。
6.総協議会は、設立一年以内に、教皇選挙委員会を立ち上げるいかなる修正も、本会憲第五部「修正」の手続きに従うものとする。教皇選挙委員会は、総協議会から独立していなければならない。
7.総協議会は、普遍教会の法・規則・方針の履行に対して諸委員会・諸機関を通じて、最終的な責任を負わなければならない。
D.指導者
(a)総則
1.すべての指導者は、奉仕職を委任された者を含め、適切な
訓練を受けた、経験ある人物でなければならない。
2.奉仕職を委任された者とは、教会のために通常フルタイム
で働き、その名において活動するために、適正な教会共同体によって選出された教会指導者をいう。
3.奉仕職を委任された者はすべて、彼らが指導すべきすべての人々を代弁するような仕方で選出されなければならない。このことは持に、地方教会の主任司祭と司教区の司教と教皇にあてはまる。
4.奉仕職を委任された者はすべて、特定の任期を務めるものとする。司教区の会憲は、主任司祭の役務の任期とその更新を明記しなければならない。全国レベルの会憲は、教区司教の役務の任期とその更新を明記しなければならない。
5.奉仕職を委任された者はすべて、理由あるときにのみ、本会憲に明言されている原則に基づく適正な過程を踏まえた手続きに従って、解職され得る。
6.奉仕職を委任された者はすべて、その責任とそれに応じた権利が個々の会憲に明記されていなければならない。主任司祭と司教と教皇の責任と権利は、特にここで説明される。
(b)主任司祭
1.主任司祭は、小教区(もしくはそれに相当するもの)によって選ばれ、司教区会憲で規定された手続きに沿うかたちで、司教および司教区協議会によって承認されなければならない。
2. 主任司祭は、小教区の司牧チームの指導者として奉仕する
ものとする。小教区協議会によって定められた方針の範囲内で、小教区の礼拝、霊的・倫理的な教えと、司牧的配慮の各次元に対し、主任司祭は主たる責任を負う。この責任には以下のものが含まる。
a集まった共同体の喜びと関心を反映し、共同体を教え導き、共同体に息吹を与える礼拝を行うこと。
bキリスト教伝統についての教え。また、キリスト教的価値が現代生活に対して有する有用性と今日性とが高まるように、霊性と道徳的教えとを提示すること。
c特殊な状況に置かれた人々に対して、キリスト教の遺産が、愛をもって効果的に適用されるような司牧的配慮。
3.主任司祭は、その任期を通じて、適切な訓練と継続的な教育を受ける権利と責任とを有する。
4.主任司祭は、その役務の行使のために公正な財政的支援を受ける権利、ならびにその適正な行使に要する必須の自由を有する。
(c)司教
1.司教は、司教区協議会によって、司教区会憲に則して選出されなければならない。その際、全国協議会および総協議会の適正な委員会の諮問とそれに続く確認を含む、全国的および国際的な共同体の適正な規則に留意しなければならない。
2.司教は、司教区の司牧チームの指導者として奉仕するものとする。司教区協議会によって定められた方針の範囲内で、司教区の礼拝、霊的・倫理的教えと、司牧的配慮の各次元に対し、司教は主たる責任を担う。その際、補完性の原則に留意する。
(d)教皇
1. 普遍教会の教皇は各国の全国協議会によって選出された代表者によって、十年限りの任期で選出されるものとする。
a全国協議会から教皇選出会議に派遣される代表者数は、その国で登録されているカトリック信者数に比例し、適正な国際的委員会によって決定されなければならない。
bその代表は、なるべく代議制によって選出され、三分の一が司教でなければならない。
2.教皇は総協議会およびその諸機関や委員会とともに、総協議会によって定められた策定を遂行する、主たる責任を負う。殊に、普遍教会の礼拝、教理、倫理的教え、霊的教えの領域と、司牧的配慮を働かせるべき領域で、補完性の原則に留意しつつ、それを行う。
Ⅳ.司法制度
A.原則
1.カトリック教会は、常に改革と改善を必要とする旅する教会である。争議、論争、信者の権利を侵害する犯罪行為が、遺憾にして起こる。このような問題は、和解調停と仲裁によって解決されなければならない。それが不可能な場合、カトリック信者は採決を求めて教会裁判所に問題を持ち込むことができる。すべてのカトリック信者は、教会法のもとで公正かつ正当な手続きを受ける権利を有する。カトリック教会の司法制度に携わるすべての人々は、適切な養成を受けた能力ある人でなければならない。
2.司教区、地方レベル、全国レベル、国際レベルの裁判所システムが確立されなければならない。それらは、指定された上訴法廷を持つ初級裁判の法廷として設立される。これらの裁判所は、この会憲とその関連法によって統治される。
B.裁判所
(a)地方・地域レベル
1.各司教区は、教区民の訴えによる争議、犯罪行為を審問するため、一つの裁判所を設置するか、あるいはその他のものを考えなければならない。
a教区裁判所は、地方教会と地域教会の内的秩序に関するすべての事柄について権限を有する。これらの事柄には、行政行為・犯罪・管轄権に関する争議や、また公正や復権に関する事柄など、一般的な教会法に定められている全ての所業が含まれる。
b教区裁判所は、普遍教会の定める法手続きに従い、その機能を果たす。
c教区裁判所の判決に対する控訴は、地方レベルの教会裁判所で審議される。
2.教区司教を巻き込む全ての案件は、全国レベルの教会裁判所で審議される。
(b)全国レベル
1.全国協議会は、地方レベルでの適切な上訴法廷と、地方裁判所から持ち込まれるすべての案件(裁判と行政、いずれに関するものであれ)に対し中級法廷として機能する一つの上訴裁判所を設立する。この裁判所の判決に対する上訴は、最高裁判所によって審議される。
(c)国際レベル
1.全国レベルの裁判所が存在しない場合、総協議会は中級法廷として機能する多国レベルの上訴裁判所を設立する。
2.総協議会は、下位法廷あるいは総協議会から持ち込まれるあらゆる案件に対し、最終上訴の法廷として機能する最高裁判所を設立する。
3.最高裁判所は、教皇の非合法行為もしくは会憲に反する行為を訴える案件を審議する。
4.最高裁判所の判決に対しては、いかなる法的上訴もあり得ない。
C.指導者の任務を継続するための適格性
教会指導者は、任務継続に必要な能力と適格性が、会憲の定める基準に従って公に問われることがない限り、選出された任期を全うする。任務のための能力や適格性についての決定は、当事者の教会職上の上司、あるいは該当する協議会によって、適正な法の手続きに従ってなされる。教皇の場合、この決定は総協議会の定例あるいは特別会議においてなされるものとする。
Ⅴ.修正
本会憲は総協議会の四分の三の賛成により修正することができる。そして、その総協議会による修正案通過後五年以内に、四分の三の全国協議会によってさらに批准されなければならない。
Ⅵ.施行
本会憲はしかるべき手続によって正当性を与えられた会憲制定会議による採択後、発効する。
(本稿は一九九八年九月十一日改訂版による。邦訳は、ARCC代表Leonard Swidler教授と親交 のある「カトリック教会会憲試案研究会」メンバーが共同で行った。文責=中村友太郎[上智大学教授])
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